港区のヒルズは何を変えたのか──六本木・虎ノ門・麻布台に見る「都市OS」としての再開発

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六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズを通じて、森ビルの「ヒルズ」型再開発がどのように進化してきたのかを読み解く。所有と運営の違い、垂直緑園都市、エリアマネジメント、都市OSとしての可能性を整理する。

「ヒルズ」という名前は単なる建物名ではない。六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズ。いずれも港区に位置し、超高層タワー、住宅、商業、ホテル、文化施設、緑地、広場、地下通路、駅、道路が重なり合う。だが、そこで起きていることは、単に大きなビルが建ったという話ではない。

麻布台ヒルズの夜景
麻布台ヒルズの夜景

ヒルズとは、森ビルが長年かけて磨いてきた都市づくりの方法であり、同時に都市を運営し続けるための仕組みでもある。土地をまとめ、建物を高層化し、地上に余白をつくる。そこにオフィス、住宅、文化、商業、医療、教育、交通を重ねる。そして開業後も、清掃、警備、植栽、イベント、テナント構成、デジタルサービスを通じて、街の体験を更新し続ける。

この記事では、六本木、虎ノ門、麻布台という3つのヒルズを通じて、「ヒルズ」型再開発がどのように変化してきたのかを読み解く。焦点は、建物の規模ではなく、都市の使い方を決める仕組みである。言い換えれば、ヒルズは港区に実装された「都市OS」なのではないか、という問いである。

ヒルズは「建物名」ではなく、都市思想の名前である

森ビルの都市づくりを理解するうえで、まず押さえるべき言葉が「Vertical Garden City」、すなわち立体緑園都市である。これは、細分化された土地をまとめ、建物を高層化・複合化することで、地上部にまとまった緑地や広場を生み出す考え方である。

Vertical Garden City - 立体緑園都市

「Vertical Garden City - 立体緑園都市」のイメージ
「Vertical Garden City - 立体緑園都市」のイメージ。建物の集約・高層化により、地上に余白を作り出している。

都心の土地面積は増やせない。しかし、空間の使い方は変えられる。低層の建物が細かく並ぶ状態では、道路、防災空間、広場、緑地を十分に確保しにくい。そこで都市機能を縦方向に集約し、足元に公共的な余白をつくる。ヒルズ型再開発は、この思想を一貫して具体化してきた。

ここで重要なのは、ヒルズが「高層ビルを建てるための論理」だけではないという点である。高層化は目的ではなく手段である。目的は、都心に住む、働く、遊ぶ、学ぶ、癒やされる、移動するという複数の行為を、徒歩圏内で重ね合わせることにある。

そのためヒルズは、オフィスビルでも、商業施設でも、住宅街でもない。それらを統合した都市の単位である。

六本木ヒルズ──「文化都心」という原型

2003年に開業した六本木ヒルズは、ヒルズ型都市再開発の原型をつくったプロジェクトである。

六本木六丁目地区は、再開発前、木造住宅や小規模建物が密集し、高低差によって街区が分断されていた。道路も狭く、防災上の課題を抱えていた。テレビ朝日を中心とする大きな敷地と、その周辺の細分化された土地が混在し、都市としての更新が難しい状態にあった。

再開発前の六本木六丁目付近
再開発前の六本木六丁目付近。庭園の歴史年表 | 六本木ヒルズ - Roppongi Hills(https://www.roppongihills.com/green/mohri/history.html)より拝借

この地区では、多数の権利者との合意形成が必要だった。都市計画決定、再開発組合の設立、権利変換、着工までには長い時間を要した。六本木ヒルズは、森ビルだけが一方的に所有する街ではない。従前の地権者、テレビ朝日、森ビル、行政、商業事業者、ホテル運営者、居住者が重なり合う、複雑な権利と運営の上に成り立っている。

しかし、利用者から見ると、六本木ヒルズはひとつの街として体験される。森タワー、けやき坂、毛利庭園、テレビ朝日、グランドハイアット東京、映画館、美術館、住宅が、それぞれ異なる主体を持ちながらも、統一された空間品質のもとで接続されている。

ここに、ヒルズの特徴がある。所有は分散していても、街の運営は統合されているのだ。

六本木ヒルズの中心に置かれたコンセプトは「文化都心」である。オフィスと住宅だけでなく、美術館、映画館、放送局、商業、イベント空間を組み合わせ、24時間活動する都市をつくる。とくに森美術館を超高層タワーの上部に配置したことは象徴的である。文化を街の付属物ではなく、都市の核に置いたのである。

虎ノ門ヒルズ──道路と駅を抱き込む国際新都心

虎ノ門ヒルズ
虎ノ門ヒルズ

六本木ヒルズが「文化都心」の原型だとすれば、虎ノ門ヒルズは「交通インフラと一体化した国際ビジネス拠点」である。

虎ノ門の再開発を理解するには、環状二号線の存在が欠かせない。戦後から長く計画されながら、都心部では整備が進まなかった道路であり、いわゆる「マッカーサー道路」として語られてきた。(終戦直後にGHQが、虎ノ門付近の米国大使館から東京湾の竹芝桟橋までを結ぶ軍用道路を求めた、という俗説が広まったため)

虎ノ門ヒルズ森タワーは、この環状二号線と一体的に整備された。道路の上空に建築物を成立させる立体道路制度を用い、インフラ整備と都市開発を同時に進めた点に特徴がある。

環状第2号線のイメージ
「ストレスのない快適な道路 環状第2号線全線開通|東京都(https://www.koho.metro.tokyo.lg.jp/diary/report/2023/02/10/01.html)」より拝借
環状第2号線の上にまたがる虎ノ門ヒルズ
虎ノ門ヒルズの下部は環状第2号線が通過している

ここでの森ビルの役割は、六本木とは少し異なる。虎ノ門ヒルズ森タワーは、東京都施行の第二種市街地再開発事業において、森ビルが特定建築者として参画したプロジェクトである。つまり、行政が長年抱えていた都市計画道路の実現に、民間の開発力と運営力を接続した形である。

その後、虎ノ門ヒルズは森タワーだけで完結せず、ビジネスタワー、レジデンシャルタワー、ステーションタワーへと拡張した。2020年には東京メトロ日比谷線の虎ノ門ヒルズ駅が暫定開業し、ステーションタワーでは駅前広場や歩行者デッキが整備された。地上、地下、デッキが重なり、街そのものが交通結節点へと変化している。

虎ノ門ヒルズの都市戦略は、国家戦略特区や国際競争力という文脈と結びついている。オフィス、ホテル、住宅、商業だけでなく、ビジネス交流施設やスタートアップ支援の機能を取り込み、グローバル企業や高度人材を受け入れるための都市環境を整えようとしている。

以下は、虎ノ門ヒルズにある施設の一例。

TOKYO NODEは「世界に向けて発信する都市へ。」というコピーを掲げており、世界への発信・接続を意識していることが窺える。

TOKYO NODE HALL
TOKYO NODE内の「TOKYO NODE HALL」。「ABOUT TOKYO NODE(https://www.tokyonode.jp/about/index.html)」より拝借

六本木ヒルズが「文化で都市を開く」モデルだったとすれば、虎ノ門ヒルズは「交通とビジネスで都市を接続する」モデルである。ここでは、街は目的地であると同時に、東京と世界をつなぐゲートとして設計されている。

麻布台ヒルズ──緑とウェルネスを前面に出した次世代モデル

麻布台ヒルズ
麻布台ヒルズ

2023年に開業した麻布台ヒルズは、ヒルズ型再開発の現時点での到達点といえる。コンセプトは「Modern Urban Village」。その柱として「Green & Wellness」が掲げられている。

麻布台周辺は、高低差の大きい地形と細分化された土地所有を抱え、老朽化した小規模建物が集まるエリアだった。六本木や虎ノ門に近接しながら、地形と街区の複雑さによって、一体的な土地利用が難しかった。再開発には約35年という長い時間がかかっている。

開発前の計画地
開発前の計画地。「麻布台ヒルズ:開発経緯 | 麻布台ヒルズ | プロジェクト | 森ビル|都市を創り、都市を育む(https://www.mori.co.jp/projects/azabudaihills/background/)」より拝借

麻布台ヒルズの特徴は、建物より先に広場と緑を考えたように見える点である。約6,000㎡の中央広場を中心に、低層部の屋上や敷地全体を緑化し、約2.4haの緑地を実現している。超高層タワーは、緑と広場を確保するために配置されているように読める。

用途の組み合わせも、従来のヒルズからさらに広がっている。オフィス、住宅、商業、ホテルに加え、ブリティッシュ・スクール・イン・東京、慶應義塾大学予防医療センター、アマンの姉妹ブランドであるジャヌ東京などが入る。ここで提示されているのは、単なる職住近接ではない。教育、医療、健康、自然、国際性を含む生活環境そのものの再編集である。

「ブリティッシュ・スクール・イン東京(BST)」
「ブリティッシュ・スクール・イン東京(BST)」のキャンパス。「コミュニティと寄り添う「ブリティッシュ・スクール・イン東京(BST)」で〈責任感〉を育てる|ヒルズライフ HILLS LIFE(https://hillslife.jp/learning/2023/09/05/the-british-school-in-tokyo/)」より拝借

麻布台ヒルズが示しているのは、都心再開発の価値軸が変わりつつあるということだ。かつては、オフィスの床面積や駅距離、商業集積が強い競争力を持っていた。もちろんそれらは今も重要である。しかし、働き方が多様化し、健康や環境への意識が高まるなかで、都心に「住み続けられる理由」「滞在したくなる理由」をどうつくるかが問われている。

麻布台ヒルズは、その問いに対して、緑とウェルネスを前面に出した回答を試みている。

所有は分散し、運営は統合される

ヒルズを理解するうえで、最も誤解されやすいのが所有関係である。「ヒルズの建物はすべて森ビルのものなのか」と問われれば、答えは単純ではない。

市街地再開発事業では、従前の土地や建物の権利が、新しい建物の床に置き換えられる。これを権利変換という。地権者は、従前の権利に応じて新しい建物の区分所有床を取得する場合がある。一方で、事業費を賄うために生み出される保留床を、参加組合員などが取得する。森ビルはこの保留床取得や事業推進を通じて、主要なオーナー、開発者、運営者となる。

そのため、六本木ヒルズにもテレビ朝日のような主要地権者が存在し、麻布台ヒルズにも日本郵便などの共同事業者が関与する。虎ノ門ヒルズでは東京都施行の事業や鉄道インフラとの関係が深い。ホテルは森ビル側が開発・所有に関与しつつ、ハイアットやアマンなど専門運営者がブランド運営を担う。

つまり、ヒルズの実態は「森ビルがすべてを所有する街」ではない。むしろ、複数の権利者と専門事業者が組み合わさる都市である。

にもかかわらず、利用者はヒルズを一体の街として認識する。これは、森ビルが開発後もタウンマネジメントを担い、街の品質を統合しているからである。清掃、警備、植栽、サイン、イベント、商業テナントの構成、広場の使い方、照明、動線設計。こうした日常的な運営が、ヒルズらしさをつくる。

ここに、ヒルズを「都市OS」と呼びうる理由がある。建物というハードウェアの上で、運営、サービス、ブランド、イベント、デジタル基盤が動いている。所有主体が異なっても、利用者には共通の都市体験が提供される。

点から面へ──港区ドミナントの意味

六本木、虎ノ門、麻布台は、いずれも港区にある。これは偶然ではない。

森ビルは、港区を中心に長く事業を積み重ねてきた。西新橋の小規模オフィスビル群から始まり、アークヒルズ、六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズへと展開してきた歴史がある。同じエリアで再開発を重ねることにより、地権者との関係、行政との調整、国際企業や大使館の集積、交通ネットワーク、生活者の動線を蓄積できる。

この戦略は、単体の建物の収益を超えて、エリア全体の価値を高める。六本木で文化に触れ、虎ノ門で働き、麻布台で暮らす。あるいは、麻布台の広場で滞在し、虎ノ門の駅から移動し、夜の六本木へ向かう。ヒルズ群は、個別の開発でありながら、港区都心部にひとつの生活圏を形成しつつある。

ヒルズ型再開発の課題

ヒルズ型再開発には明確な強みがある。防災性を高め、老朽化した街区を更新し、緑地や広場を生み出し、国際的な都市機能を集積できる。開発後も統合的な運営が続くため、街の品質を維持しやすい。

一方で、課題もある。

第一に、合意形成の時間である。六本木も麻布台も、開業までに非常に長い年月を要した。多くの地権者の生活や資産を扱う以上、時間がかかること自体は避けられない。しかし、都市が変化する速度と再開発の時間軸のずれは、今後も大きな課題である。

第二に、都市の多様性である。大規模再開発は、空間品質を高める一方で、小規模で雑多な街の記憶を薄める可能性がある。ヒルズは広場や文化施設を通じて公共性を演出しているが、そこにどれだけ多様な人が自然に入り込めるかが問われる。

第三に、オフィス需要の変化である。リモートワークの浸透により、都心オフィスの意味は変化している。単に床を供給するだけではなく、人が集まる理由、偶発的な交流、都市の体験価値をどう設計するかが重要になっている。虎ノ門や麻布台が交流施設、広場、ウェルネス、教育、医療を組み込んでいるのは、この変化への応答とも読める。

ヒルズは「開発」から「都市運営」へ進化している?

六本木、虎ノ門、麻布台を並べると、ヒルズ型再開発の進化が見えてくる。

六本木ヒルズは、文化を核にした職住遊文の複合都市だった。虎ノ門ヒルズは、道路と駅を組み込み、国際ビジネス拠点として都市インフラと一体化した。麻布台ヒルズは、緑とウェルネスを前面に出し、都心生活の質そのものを再定義しようとしている。

この変化は、森ビルが単なるデベロッパーから、都市運営者へと進化してきた過程でもある。開発して終わりではなく、街を育て続ける。所有して終わりではなく、複数の所有者を束ねて都市体験を統合する。建物をつくるだけではなく、そこで起こる行動や関係性を設計する。

その意味で、ヒルズは「ブランド」であり、「都市思想」であり、「運営モデル」である。そして、六本木、虎ノ門、麻布台を結ぶ港区のヒルズ群は、東京の都心にひとつの都市OSを実装する試みと見ることができる。

もちろん、このOSは完成していない。むしろ、開業後の運営のなかで更新され続ける。利用者がどう滞在し、働き、移動し、学び、健康を管理し、文化に触れるのか。そのデータと経験が次の開発に反映されるなら、ヒルズは不動産ではなく、都市サービスのプラットフォームへ近づいていく。

港区のヒルズが示しているのは、東京の再開発が「大きな建物を建てる時代」から、「都市の使われ方を設計する時代」へ移っているということである。都市の意思は、建物の高さではなく、足元の広場、動線、緑、運営、そしてそこに人を招き入れる仕組みに表れる。ヒルズ型再開発の本質は、まさにその総合設計にある。

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